story

About Isolated Memories 2/3

written by Shunta Ishigami

photograph by Yusuke Abe

 2023年1月に小値賀島で発表されたコレクション「writtenafterwards 12 Isolated Memories」は、数年にわたる山縣の実践が結実したものだ。小値賀島の歴史的建築・旧小西邸を舞台にインスタレーションの展示が行われたほか、野崎島でもアートピースを展示。小値賀島内には、田附勝と濱田祐史の写真と須山悠里のデザインによってつくられたポスターが貼られていった。

 メインビジュアルを4つに分解することでつくられたポスターがあちこちに貼られている風景はwrittenafterwardsが島内に染み込んでいるようにも見えるし、昔ながらの釣具屋やスーパーの店頭に貼られたポスターはどこか浮いているようにも見える。ローカルな風景と外からやってきたクリエイション。両者は一体化しているわけではないが、かといって切り離されているわけでもない。そんな二重性は、旧小西邸で行われた展示にも見られるものだろう。

 100年近い歴史を誇るこの建築は小値賀島に初めてつくられた近代建築だと言われ、その内部にはかつて使われていた食器や家具、建材が今も残されていた。旧小西邸に残された家具をそのまま活かしながら構成されたインスタレーションは、極めて雄弁だ。壁に貼られたカレンダーやポスター、風呂場の壁へ広がる蔦など目に入るものすべてからこの場の歴史が感じられ、会場の一角には野崎島に建つ旧野首教会の近くに打ち捨てられていたミシンが佇んでいる。

一室の壁に投影されている2022年のコレクション映像は小値賀島ではなく神奈川県・三浦半島で撮られたものだが、旧小西邸で展示されることでこれまでとは異なった意味を帯びているようにも思われる。島の暮らしや歴史、文化……会場に足を踏み入れた来場者は、膨大な量の情報とともにインスタレーションと対峙することになるだろう。

 「初めから島で展示会を行いたいとは思っていたんですが、どうすればいいか分からなかったので島の方々と話し合ったり役場の方々とお会いしたりしながら制作を進めていました。たまたまこの場所を使えることになったんですが、すごい贅沢な空間ですよね」

 そのような空間に置かれた新作コレクションもまた、小値賀という土地の内部と外部をつなぎながら宙吊りにされている。破れた障子を画像として取り込みプリントしたスカーフや畳を模した柄がプリントされたコート、錆染が施されたストール、布ガムテープを縫い寄せて藁のような質感を表現したテキスタイルなど、コレクションで用いられる意匠は確かに小値賀島や野崎島からのインスピレーションを感じさせるものでもあるが、必ずしも直接的に島の文化や自然を取り入れているわけではないだろう。むしろそこには、安易にそれらをレファレンスとするのではなく、外部のテクノロジーやモチーフを挟むことで両者の間に柔らかな膜を張ろうとするような態度さえ感じられる。

 クリエイターの内発的な創造性だけでなく土地や建築、歴史や文化といったさまざまな対象のリサーチをベースにした制作はファッションのみならずアートやデザインにおいても一般的なアプローチのひとつとなっているが、ただ文化や歴史、自然をサンプリングするだけでは意味がないはずだ。今回発表された「writtenafterwards 12 Isolated Memories」からは、そういった隘路を丁寧に避けながら小値賀諸島の文化や歴史と向き合おうとする姿勢が伝わってくるだろう。

 いったいなぜ、山縣は小値賀諸島に惹かれていたのだろうか。その理由は一意に定まるものではないが、小値賀諸島の暮らしに見られる自然や文化とのつながりが魅力的だったことはたしかだろう。それは単なる自然回帰ではなく、長い時間をかけて生み出された彼の地の文化やその歴史に自身を置くことでもある。

 「小値賀諸島は中国大陸に最も近い貿易ルートのひとつとして、遣唐使の時代から交易の拠点として栄えていたそうです。海のシルクロードの一部としてアジアの文化が流れ込んでくる場でもあったし、江戸時代にはキリシタンが住むなど、西欧とアジアの宗教的な対立が起きる場でもあった。この島の素朴な暮らしの背景には、多くの文化が対立しながらも融合していく壮大な歴史が感じられるんです」