story

About Isolated Memories 1/3

written by Shunta Ishigami

photograph by Yusuke Abe

 博多港を23時45分に出発したフェリーは、朝4時40分に小値賀港へ到着する。夜明けとともにフェリーから降りた人々は、朝もやをかき分けながら島の中へ足を踏み入れていく。

長崎県・五島列島北部に位置する群島、小値賀諸島。大小17の島々から構成されるこの地域には2,400人ほどの人々が住んでおり、小値賀島を中心に、いくつかの島々へ集落が分散している。そのなかには現在無人島となっている島もあり、なかでも小値賀島東部に位置する野崎島は江戸時代には潜伏キリシタンが弾圧を逃れて住んでいたことで知られている。

 writtenafterwardsを手掛けるデザイナー・山縣良和が初めてこの島を訪れたのは、2018年のことだ。幼少期を長崎県・島原で過ごした山縣にとって長崎は故郷のひとつと言えるかもしれないが、かといって小値賀島はもとより五島列島にルーツをもっているわけではない。まったくの外部から訪れた観光客でもなければ、その地に根を張る出身者や居住者でもなく――小値賀諸島における山縣の試みは、小さなつながりから始まっていった。

 2018年以降、山縣はときおり小値賀諸島を訪れ、現地でのリサーチが行われるようになった。コロナ禍で来島こそ難しくなったものの、長崎の文化、歴史からインスピレーションを受けた制作は続く。2021年には、衣服の生成と分解をテーマに長崎県美術館でコレクション『writtenafterwards 12th 合掌 -Hidden Archives-』のインスタレーションを実施。さまざまな外来文化を取り入れてきた長崎の歴史と向き合うことで生まれたこのインスタレーションは、土地や文化、歴史のリサーチを制作へとつなげる山縣のアプローチが反映されたものだと言えるだろう。

 「コロナ禍によって移動が制限されたこともあって、自分の置かれた場所や境遇に身を委ねることによって生まれるクリエーションに興味がわいてきたんです」

そう山縣が語るように、2022年10月に約3年ぶりとなる来島が実現して以降、小値賀諸島でのリサーチは本格化していくこととなる。ときには写真家の田附勝や濱田祐史らを迎えながらリサーチや撮影は続いていく。必ずしも小値賀島や野崎島に精通しているわけではない山縣にとって、田附や濱田とともに行うリサーチは彼らに島の文化を紹介する場でもあり、同時に彼らの視点を通じて新しく島の文化を知る場でもあった。